■10回目を迎えた
草枕美術展
 平成7年にスタート、隔年開催して18年で10回目を迎えました。「草枕」は難解で読書断念も多く、冒頭の名文や峠の茶屋のくだりは有名でも、中身はほとんどしられていない。読んでほしい。でも読むのは大変そう。ということを解消する手段として始めたのが、〜絵で読む「草枕」〜。主人公の画工になり代わった漱石は作品の中に豊富な芸術観をちりばめながら克明に情景描写をしています。私たちは、当時ここに注目し、大正15年に描かれた絵巻による〜漱石の見た美と「草枕」絵巻展〜を開催しました。現代の「草枕」絵巻の創作とその作品と見学者の融合による読書と理解促進を意図しています。
 これまでご応募ご参加いただいた多くの皆様、および、ご支援ご協力いただいた関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
■展示公開と
記念講演会の開催
展示/1期=全作品<1月4日〜ら2月25日>、2期=入賞作と歴代優秀作<3月1日〜23日> 会場=草枕交流館
表彰式&記念講演会/2月11日(祝)、表彰式に続き「草枕」に描かれた名画をテーマとした講演会。会場=草枕交流館
 ※詳細はこちら ⇒ ☆漱石と「草枕」の美術世界講演会


2013 第10回草枕美術展 入賞作品 <作品写真は下>
〜 応募総数 28点 〜
受付 タイトル 私の「草枕」(メッセージ) 氏 名 住所
7



浴室の那美  詩聖杜甫は「月夜」で、異郷の寝室の妻の姿を明察する−香霧雲髪湿 清輝玉臂寒−月光が彼女を硬質緻密に、アングルの「オダリスク」然と描出し、一点の隈もゆるさない。 草枕の画工は美を解するが故に、敢えて那美は彼に己が真裸を晒す。杜甫が狂おしい月の光で描出したものを、漱石は水蒸気で以て果たした。−漲り渡る湯烟のやはらかな光線を一分子毎に含んで、薄紅の暖かに見える奥に、漾はす黒髪を雲と流して−。日本は水蒸気の国であり、描かれるべきは水蒸気であった。 杉浦隆夫 愛知県
講評 ・技法等々、作者に伺ってみたい作品。このシーンは、主人公が西洋の裸婦像にゆいて思いをめぐらせる場面であり、それをあえてこのような形で表現されているところに魅力を感じる。
・雰囲気がよく出ている。技術的にも上等。
9


明暗は表裏のごとく  非人情をしに出掛けた旅路で、逢う人物を大自然の点景として、どう動いても胸中の画の平面以外に出られるものではない。という淡い心持ちを受け止めました。黒と金の切り絵を重さね、1つの作品として制作するに辺り、見る物、感じる角度を黒は暗、金は明と表現。「物を主にして空気をかく」水面におちた椿と温泉場のお那美さんの「憐れ」が一面に浮かびながら、春の菜の花と雲雀の声がする自然景物を私がイメージした情景を表現させて頂きました。 風間由香利 長野県
講評 ・私見ではあるが、「草枕」にはあまり色彩を感じない。その点で、この作品が小説の世界観を上手く表現しているように思われた。
・イメージとして優れている。
23


草枕心象図  作品を読んでいく中で、思いうかんだものをそのまま、かきました。「非人情」の世界観を表現しました。那美さんの表情をそうぞうして画工の心、画工の目にうつる世界をそうぞうしました。 福井洋祐 熊本市
講評 ・ポスターなどにも使われていいような作品で、よくまとまっている。
・きれいに作品世界をまとめている。
24


春恨  山中の一軒宿で画工の目を通じて整理される出来事は、どれも非人情的に解釈されながらどれもが人情からのがれられない。那美が短刀で断ち切ろうとしたのは、これまた、まぎれもなく人情であったに違いない。 中橋彰夫 千葉県
講評 ・那美を始め漱石作品に登場する女性とはこんな感じの顔ではないのかと思った。ハッキリとして、危うげな感じだ。
・那美の表情が特によい。
1


嫁&馬  夏目漱石先生の本選ぶスタイルです!
馬&嫁&バック図のマイケの絵をターナ風で描いてみました!         
豊福久義 福岡県
講評 ・絵にしやすいシーンではあるが、何よりタイトルにやられた。
・「草枕」の一つの看板みたいなもの。
15


那美の印象  草枕・物語の中でおいかけてゆく、蒼白き驚かしたる女の顔。胸中の画面の那美さんを、表現してみました。 柴田磯正 福岡県
講評 ・明治期の小説に登場する人物を、少し現代風にまとめたというところだろうか。良く描けているとは思うが、那美にはもう少し芯の強さのようなものが必要なのではとも思う。 
・那美さんの表情の一つだったかもと思われる。白の部分が効果的。
21


那美と漱石(浴室にて)  湯けむりの中に突如現われた那美。手ぬぐいを下げ一歩一歩階段を下りてくる。湯壷で待つ私。沈黙を守るべきか否か・・・ 橋田俊克 熊本市
講評 ・素朴ながらも力づよい表現が好き。主人公(漱石)の顔から出ている三角形は何を示すものなのか、など、色々と考えさせられる、気になる一点。
・両者の表情が、いかにも「草枕」の中の気分である。
22


蝕むは妖  妖女のような毒気のある椿。その花の発つ"異様な赤"がひとつ、ふたつと水に落ち、色をにじませ染めてゆく。そこに浮く女の眉宇があらわす情"ははっきりとは解らない。 岩本夕佳 熊本市
講評 ・漱石がすきそうなファムファタル的女性観が良く表現されていると思う。ただ、ミレイの「オフィーリア」からは少しはなれた方がいいかと。
・那美さんのもう一つの性情ではなかったかと思われる。
26


木蓮  鏡が池を真赤に染める椿を見て那美さんを描きたい想いを募らせた主人公は、その通り、観海寺に寄ります。空には美しい月、一抱えもあろうかという大きな木蓮には、心をすっと鎮めてくれるような白い花々。鎮めてもなお沸き立つ気持ちを、木蓮の花に託して表現してみました。 石倉かよこ 東京都
講評 ・視点が少しおもしろい様に感じた。もう少し形が明確でもよかったのでは。
・構図的にもおもしろい。観海寺の夜の雰囲気が出ている。
総評1 小説の絵になりやすいシーンを作品化したものが多いように思われる。それはそれで良いと思うが、その場合には+αが必要だと思う。あるいは、もっと究極な視点があってもいいのでは、とも思われた。
総評2 今回は作品(草枕)世界を大きくはずれた作がなかった。 イメージとしてはなかなかおもしろいが、絵としての技術がともなわない作も多かった。 一方、技術におぼれた作もあった。



最優秀賞 「浴室の那美」 杉浦隆夫

優秀賞 「明暗は表裏のごとく」 風間由香利

優秀賞 「草枕心象図」 福井洋祐

草枕ファン倶楽部特別賞 「春恨」 中橋彰夫

奨励賞 「嫁&馬」 豊福久義

奨励賞 「那美の印象」 柴田磯正

奨励賞 那美と漱石(浴室にて)」 橋田俊克

奨励賞 「蝕むは妖」 岩本夕佳

奨励賞 「木蓮」 石倉かよこ
審査員/
中村青史氏(前草枕交流館長、元熊本大学教授、文学博士)
林田龍太氏(熊本県立美術館主任学芸員)

※特別賞以上の作品(赤枠)は、草枕交流館へ譲渡いただき、「草枕」の理解促進に継続活用させていただきます。